Ave Verum Corpus – die zweite Einführung

Ave Verum Corpus イントロそのに 最小限のラテン語文法

その前に、ここで使うラテン語の文法(用語)を、おたがい英文法を知っている前提で少しだけ整理しておく。

とはいえ、こちとら英文法もラテン語文法もかじっただけの素人レベルなので、間違いは多々あろうかと思う。あくまで、わたしはこういうつもりで読んでいる、ということに過ぎないので、決して鵜呑みにしないように。

[冠詞 article]

・ラテン語には冠詞がない。

[名詞 noun]

・名詞は無生物であろうとなんであろうと全部、男性名詞、女性名詞、中性名詞の三種類にカテゴライズされ、また、複数形の作り方は単に-sをつけるだけでなく、いろいろある。(-sをつけて複数にするのはむしろ少数派)

いや、英語でもactorとactressみたいに男性名詞・女性名詞がある、また、3人称の代名詞にもhe, she, itの男性・女性・モノ、という使い分けがある、と思うだろうが、ラテン語の「文法上の性」はそんなもんではない。

たとえば、
男性名詞(m): ager 畑、animus 精神・・・
女性名詞(f): aedēs 神殿、amīcitia 友情・・・
中性名詞(n): bellum 戦争、dōnum 贈り物・・・
つまり、現実の「生物学上の性」と全く無関係に「文法上の性」がある。
ちなみに、英語では前者をsex、後者をgenderと使い分けている。社会的な性差ってのは人間が勝手に決めたもので実際の生物学的性別とは本当は関係ないよね、っていうのを「ジェンダー」と表現するのは、この用語から転用したものだ。

・名詞は文章中における役割(主語だとか目的語だとか)を表すために「格」を持つ。

一般に、文章という枠組み内に単語という部品をばらまくだけでは、その意味はなかなか伝わりにくい。文章を組み立てるにあたって何らかの手段が必要となるが、各国語、それぞれ苦労している。

たとえば英語では、
The rich man eats the shark.
といえば、金持ちがフカヒレスープを食べている絵が浮かぶが、
The shark eats the rich man.
といえば、プライベートビーチに出現したサメが人を襲っている絵が浮かぶ。
これは、言葉を並べる順番(語順)によってその名詞の役割を示しているわけだ。

また日本語では、
金持ち「が」サメ「を」食べる。
金持ち「を」サメ「が」食べる。
と、名詞に添える言葉(助詞)によってその名詞の役割を示している。

これに対しラテン語は、
名詞の形そのものを変えることによってその名詞の役割を示すようになっている(格変化)。このやり方は、英語にも代名詞の変化に辛うじて残っている。heといえば主語だし、himといえば目的語だ。
I, my, me、you, your, you…と暗記したとき、それぞれ「主格」「所有格」「目的格」という文法用語をあてたかと思うが、ラテン語はこの「格」が5種類ある。
1 主格(nom) 英文法の「主語」にほぼ対応
2 属格(gen) 英文法の「所有格」にほぼ対応
3 与格(dat) 英文法の「間接目的語」にほぼ対応
4 対格(acc) 英文法の「直接目的語」にほぼ対応
5 奪格(abl) 英文法ではこれに直接対応するものはなく、前置詞句などで表現される
・・・全ての格に対して「ほぼ」とつけていることに注意。完全対応ではない。たとえば、主格であっても主語ではない、という例は今回の歌にも登場する。ほかにも、呼びかけのための呼格(voc)とか、地名を表す地格(loc)などもあるが、今回の歌には関係ない。

[動詞 verb]

・動詞は人称変化がたくさんある。
英語では人称変化は「三単現のs」だけを特別なルールとして覚えた。けれど、ラテン語は、1・2・3人称かける単数・複数、計6種類の人称変化がある。面倒かもしれないが、人称変化が動詞の中にたくさん残っているため、主語が何なのかわかりやすく、主語を省いても大丈夫。むしろ、主語が代名詞でいいときは省くのが普通。

英語だと主語がないことで命令文ということを示すが、ラテン語は命令文のためには動詞のほうが命令法という形に変化するので、主語の有無に関係なく平叙文か命令文かの判断がつく。ちなみに命令法には現在と未来の二つの時制があり、また、3人称を主語とする命令法もある。

・動詞は時制変化もたくさんある。
英語では時制変化は不規則動詞だけを例外として覚えてきた。その英語の感覚でいえば「不規則動詞ばっかり」のイメージ。ラテン語の時制の種類は、過去・現在・未来、過去完了・現在完了・未来完了、の6つ。英語だと、たとえば、過去は過去形という一つの単語だったのに、未来はwillプラス原形、完了はhaveプラス過去分詞という二つの単語で表した。ラテン語では、どれもみなそれぞれの時制に合わせて変化した一つの単語となる。

・英語の原形は一つだけだし、分詞は現在・過去だけだが、ラテン語の不定法(英語でいう原形)は、[現在・未来・完了]*[能相・所相]の6つ、分詞は現在分詞、完了分詞、未来分詞の3つがある。なお、ここでいう「能相・所相」とは英語でいう「能動態・受動態」のこと。

[形容詞 adj]

・形容詞は説明対象となる名詞の性・数・格に合わせて語尾変化する。
たとえその対象となる名詞が文中に現れていなくても、やっぱりそれに合わせて変化する。変化ってめんどくさいなと思うかもしれないが、それはそれでメリットがある。すなわち、英語では対象となる直前に形容詞を置かないと何が何を修飾しているかわからなくなるが、ラテン語では対応する形容詞と名詞とが性・数・格を揃えた形になるので、多少離れたところに置いても何を修飾しているのか見当がつく。言葉の並びを動かしてもある程度なら大丈夫、という特徴は、特に詩文で音の調子を整えるために便利。

[前置詞 prep]

・前置詞は後続する名詞の格が決まっている。
たとえば後続する名詞が奪格であれば、「奪格支配の前置詞」(prep <+abl>)と表現する。英語でも、前置詞の後に主格は来ない、たとえば「by I」とは言わない、というルールがあったが、あれと同じ。ただ格の種類が多い分、英語より繊細な使い分けができる。

以下、いよいよ歌詞に入る。(つづく)

なにかひとこと。